「オクターブチューニングを調整してもらったのに、なんだか完璧には合わない気がする」——過去記事「オクターブチューニングとは」でも触れましたが、実はギターという楽器には、調整だけでは解決できない、構造的な限界があります。
この記事では、50代のギター再開者向けに、ギターが本質的に抱える「フレット音痴」という現象と、その付き合い方を解説します。
■ ギターは原理的に「音痴」になりやすい楽器
ある研究者は「ギターを弾いていて、6弦4フレットのハーモニクス音と3弦1フレットの実音がなぜ一致しないのか不思議に思ったことはありませんか?」という問題提起をしています。実際にこの2つの音を鳴らしてみると、本来同じ「ソのシャープ」の音であるはずなのに、微妙に違う音程になり、同時に鳴らすと気持ち悪い状態になることがわかっています。
これは、ギターの調整不良ではなく、現在広く使われている「平均律」という音律システム自体が持つ、避けられない特性なのです。
■ なぜこの現象が起こるのか:平均律という仕組み
現在のギターは「平均律」という音律に基づいて作られています。平均律は、1オクターブを12等分することで、どのキーでも演奏できる利便性を実現した仕組みです。
しかし、この平均律は数学的に完璧な調和を実現しているわけではありません。純正な音程(自然な倍音関係)と比べると、平均律の各音は、わずかにずれた「妥協の産物」になっています。このわずかなズレが、フレットの位置ごとに積み重なることで、「フレット音痴」と呼ばれる現象が生まれます。
■ 過去記事のオクターブチューニングとの関係
過去記事「オクターブチューニングとは」でご紹介したオクターブチューニングは、開放弦と12フレットの音を1オクターブに合わせる調整です。これはこれで大切な調整ですが、それだけですべての音程のズレが解消されるわけではありません。
平均律というシステムそのものに起因するズレは、通常のギターの構造では、原理的に完全には解消できないのです。
■ 「フレット音痴」を疑うべき症状
では、実際に自分のギターで気になる違和感を感じたとき、それが「平均律の限界」なのか、それとも「調整不足」なのか、どう見分ければよいのでしょうか。
▼ 調整で改善する可能性が高いケース
弦を押さえた時に音程が上がりすぎる(シャープする)症状がある場合、フレットの溝が浅い、あるいはナットの状態に問題があることが原因の場合があります。この場合は、専門的な調整で改善する可能性が高いとされています。
▼ フレットの高さが原因のケース
フレットの高さが0.5ミリ以下になると、弦を押さえたときに音が音痴に聞こえがちだとされています(過去記事「フレットの寿命とすり合わせ・交換のタイミング」も参考にしてください)。この場合は、フレットのすり合わせや交換で改善が期待できます。
▼ 平均律由来で、調整では解消しきれないケース
上記のような明確な原因が見当たらず、それでも「なんとなく気持ち悪い」と感じる部分がある場合は、平均律という仕組みそのものに由来する、避けられないズレの可能性があります。
■ 「試奏して違和感がなければ問題ない」という考え方
フレットの減りについての専門的な見解では、「実際に試奏して弾き心地に違和感があり、そのことがストレスを感じ、演奏に支障をきたすのであれば交換をオススメする」「逆に言えば、音痴に聞こえず弾き心地に問題がなければ交換の必要はない」とされています。
これは平均律由来のズレについても、同じように考えることができます。完璧な調律を追求しすぎるより、「実際に演奏していて心地よいかどうか」を基準にする方が、現実的で健全な向き合い方と言えます。
■ プロも完璧を目指しているわけではない
こうした平均律の限界を知っているプロのギタリストやリペアマンも、「完璧に合わせる」ことよりも「実用上気にならないレベルに収める」ことを目指しています。
音程にとても敏感な方向けに、より精密な調整システム(ナットの位置を微調整するような特殊なシステムなど)も存在しますが、これは非常に専門的で高価な選択肢です。多くのギタリストにとっては、通常のオクターブチューニングと、日々のメンテナンスで十分だとされています。
■ 「気持ち悪い」と感じすぎなくて良い理由
▼ 実際の演奏では気になりにくい
単音を伸ばして重ねて聴くと違和感がある場合でも、コード全体を鳴らして演奏している時には、それほど気にならないことが多くあります。
▼ 多くのプロも同じ楽器を使っている
世界中のプロギタリストも、同じ平均律のギターを使って演奏しています。この構造的な特性は、ギターという楽器の「個性」の一部とも言えます。
▼ 耳の感じ方には個人差がある
音程のズレへの感じ方には個人差があります。過度に神経質になりすぎず、自分が心地よいと感じるかどうかを基準にすることが大切です。
■ 50代がこの知識を持つメリット
▼ 「自分の調整の腕が悪いのでは」という誤解を防げる
オクターブチューニングをしっかり行っても、なお完璧に一致しない部分があることを知っておくことで、必要以上に自分の技術や機材を疑わずに済みます。
▼ ギターという楽器への理解が深まる
普段何気なく弾いているギターに、こうした興味深い仕組みがあることを知ることは、楽器そのものへの理解を深める、良いきっかけになります。
▼ 完璧を求めすぎない姿勢が身につく
音楽全般において、完璧を求めすぎず「心地よさ」を基準にする姿勢は、演奏を楽しむ上でも大切な考え方です。
■ 50代がこの知識を活用する際のアドバイス
▼ まず基本的な調整(オクターブチューニングなど)を確実に行う
平均律由来のズレを気にする前に、まずは基本的な調整がきちんとできているかを確認しましょう。
▼ 気になる違和感は専門家に相談する
自分で「調整不足」なのか「平均律の限界」なのかを判断するのが難しい場合は、リペアショップに相談してみることをおすすめします(過去記事「信頼できるリペアショップの選び方」も参考にしてください)。
▼ 過度に神経質にならない
わずかな音程のズレを気にしすぎるより、演奏そのものを楽しむことに意識を向けることが、長くギターを楽しむコツです。
■ まとめ:ギターの「フレット音痴」との向き合い方
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 原因 | 平均律という音律システムそのものに起因する構造的なズレ |
| 調整で改善するケース | フレットの溝の浅さ・フレットの摩耗・ナットの状態など |
| 調整では解消しきれないケース | 平均律由来のわずかなズレ |
| 判断基準 | 「実際の演奏で気になるかどうか」を基準にする |
ギターが構造的に抱える「フレット音痴」は、完璧を目指すというより、上手に付き合っていくべき、楽器の個性の一部です。50代のギターライフに、この視点を取り入れて、過度な完璧主義から少し解放されてみてください。
■ ギターの調整についてプロに相談したい方へ
音程の違和感については、オンラインレッスンでプロに相談してみるのも一つの方法です。


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